
通算8枚目のアルバム『steal a person's heart』をリリースしたエゴラッピン。今年、結成17年目を迎える彼らが最新作で提示したサウンドは、そっと身体に染み込んでいくような優しさと心地よさで聴く人に寄り添う。歌い続ける中納良恵と、鳴らし続ける森雅樹。二人が奏でる今のエゴラッピン"らしさ"とは。
Photo_Ryosuke Kikuchi
Edit_Yohei Kawada
-2年半ぶりのアルバムということで、前回のアルバムを出してから現在までを振り返っていただけますか。
森雅樹(以下、森): やっぱり大きな出来事としてはまず、震災がありましたよね。
中納良恵(以下、中納): 前回のアルバム『ないものねだりのデッドヒート』のツアーも一段落して、あれが起こって。震災後はすぐに、地方へアコースティックのライブをしに行ってましたね。それを、しばらくは続けてたよね?森: そうですね。できるだけ身軽な状態で、どこへでもライブに行けるように。2人で行くこともあれば、ドラムのスガちゃんを連れて3人で行ったり。震災が起きてすぐです。
-その後は地元・大阪のクラブ「NOON」の摘発を受けて、風営法改正を考えるイベント「SAVE THE NOON」への参加もありましたよね。
中納: 音楽聴いて踊るなんて普通のことじゃないですか。それが法律としてアカンとされていることが、ちょっとヤバい時代に生きてるという実感はあるし、昨今、流行のアイドルグループもそうですけど、みんなが一緒じゃないとアカンという雰囲気自体が異常だなと思うんですよね。均一化されることに慣らされていってる、というか。もう、それに気づかないようになってるんだとしたらヤバいなと思うんですよね。人前で音楽をやってる立場として「それはちょっとヤバいよ」と、私らがもっと率先して言わないといけないと思うんですよ。
森: しかし、ややこしい問題ですよね...。僕がDJの際に掛けるレコードもそうですけど、決して踊らなきゃならないわけじゃなく、本能的に踊っちゃうようなレコードを掛けてるわけですからね。(風営法っていうのは)自然を妨げているような、そんな感じですよね。
-今作はこれまでにないほどにストレートなメロディと歌詞が印象的でした。エゴラッピンらしいバリエーションの豊富さはあるのに、過去のどの作品よりも素朴で優しい。そこに何か、今話していただいたような、身の回りの環境の出来事を経て制作された痕跡を感じることができます。
中納: 特に明確なコンセプトは設けていなかったので、結果そうなったんです。ポップなアルバムを作ろうとか、そういう意図はありませんでした。ハードコアでもパンクでも、キャッチーなものの中には必ずポップさが存在していて、その部分は重要だと思うんですよ。ただ、先ほども言ったように、震災以降に全国の様々な場所でライブをやった経験から、"アコースティック"というのは意識としてあったかもしれませんね。
森: そうかもな。アコースティックという言葉は、確かによっちゃんの口から出てきてたよな。「水中の光」というアルバムの最初の曲があるんですが、それは象徴的かも。今作の中で一番始めにできた曲なんですよ。
-過去のアルバムの1曲目を聴くと、割とアッパーなテンションの曲が多かったと思うんですよ。逆に言えば毎回、そこにエゴラッピンらしさを感じ取ることができた。今回のアルバムを再生して最初にこの曲のイントロが耳に入ってきた時は、そういった意味で驚きというか、「おやっ」という意外性を感じましたね。
森: 意識してあの曲を最初に持ってきたというのはあるかもしれませんね。ああいう優しいアコースティックな曲が1曲目に来るという印象の下の作品と言いますか、うん。
-アルバムを締めくくる「fine bitter」という曲も、「水中の光」の延長線上にあるような気がしましたね。受け手としては今作でお二人が考えていること、あるいは今の気分的な部分が非常にスッと入ってきて、共感できるというか。
森: ええ、割と正統派と言いますか、ある意味ではそういうフィールドに乗っている2曲と言えるかもしれませんね。だから、よっちゃんの言った「震災以降のライブを通してアコースティック的な意識が強くなった」という部分は、アルバムに素直に表れているのかもしれません。実際、僕は普段聴く曲もずいぶん変わった。もうあれから2年以上も経つのに、今も穏やかな曲を欲しているのかも分からない。
中納: 私は音楽の聞き方は変わらないですけど、やっぱり衝撃的なものだったから、かなり影響は受けています。あれで何か自分がやれることを再確認しましたし、身が引き締まる思いでしたから。加えて、さっきも少し話した大阪の現状もあって、今までは口に出さないようなこととかもポンポン言葉に出てきてしまう。震災以降、特に今回のアルバムの歌詞については、その辺も反映されていると思いますね。森: そうだね。
中納: ただ全然押し付ける気はなくて、「ちょっとそれは違うんじゃない?」っていう提案ですよね。柔らかい部分で物事を考えてもらうきっかけとか、一方で何かを分かり合うきっかけとか、そういう風になっていったら良いんですけどね。
森: あとは、最近は音楽を知るにも恵まれた環境があるし、例えば、どういう音が鳴っているのか気になれば、ネットでもなんでも調べればすぐに分かりますよね。技術的な部分もだいぶ進化してて、10代の子でもクオリティの高い楽曲をたくさん作ることができる。でも、今ひとつ"人"が見えてこないというか、サウンドはヘロヘロでももう少し人間っぽい感じが残っている音を欲してるんですよ。だから余計に、確信犯的に味わい深い音に近づけているというのはありますね。
-温もりを感じられるクラフトのようなものでしょうか?
森: 今回のアルバムは今までの作品より音数も少ないし、なるべく自分たちで楽器を演奏してたりするんですよ。シンセベースをよっちゃんがやるとか、みんなでドラム、ギター、ボーカル、ピアノを色々試したりして。"やってない人のやってる感じ"とか、その混ざり具合とか、そこが絶妙だったりするんですよね。この作品で出したかったのはそういうポイントのような気もしてます。遊びの延長線上でやっても、その辺の感覚は3人とも合うし良いもの持ってるからやり易い。いつものライブバンドでやってしまうと、また少し雰囲気も違うのかなあ、って思います。

-今回のアルバムの7曲目に収録されている「女根の月」について聞かせてください。この曲は現代美術家の大竹伸朗さんが作詞を手掛けたそうですね。大竹さんに歌詞を依頼するに至った経緯を教えていただけますか?
森: まずはアルバム『ON THE ROCKS!!』のジャケ写。そこからの出会いですよね。今回は、よっちゃんが共通の知人を通じて電話で話したのがきっかけだよね?
中納: そうですね、それで去年、宇和島にある大竹さんのアトリエに遊びに行かせていただきました。のんびりした、良いとこでしたねえ。普段は絶対に行けない場所ですからね。でっかい倉庫で、こんな小っこいテレコでマイルス・デイヴィスを流しながら絵を塗ってましたね。その時も、作品の模型を作りながら、「ここはショッキングピンクじゃないかなあ」とか「ここにこれを乗せたいんだよ!」なんて言ったりしながら、おじさん3人が熱く話をしながら作業してるのが素敵だなあって。-実際に大竹さんに歌詞を作っていただいて作曲するという作業はどうでしたか?
中納: これが結構楽しい作業で、意外にできるもんやなあって思いましたね。過去に、誰かに作詞をしてもらうということは一度もなかったんですよ。だから、詞のイメージを膨らませてどういうメロディが合うのか考えながら作っていって。そういうアイデアは昔だったら絶対に思い浮かばなかったですね。
森: 大竹さんだったらやってみたいという気持ちもあったよね。よっちゃんとの電話のやり取りでは、曲のテーマを何にするかという話はしてたみたいなんですけど、そこまでオーバーじゃなくて、なんとなくのワードで広がりましたね。
中納: "海"や"山"、"宇宙"といった漠然としたキーワードから、「男と女」っていう話になって。ただ、あまりこちらから特別なオーダーはしなくて、電話口で大竹さんと雑談っぽい感じで話しながらイメージを共有していったんです。最初に歌詞を貰った時は、すごいなあって。絵みたいやなあと思いました。
森: エッセイなんかも色々と書いてる方だから、僕らも言葉に引っかかりが多くて。
-ボーカルもリーディングのように歌い上げてますよね。
中納: 言葉をたくさん書いていただいたんで、曲にするとちょっとハマらない部分もあったんですよ。とはいえ、それらを無駄にしたくなかったから、前半をリーディングにして、サビの部分はサビの部分でメロディを乗っけて。
森: またすごく(リーディングが)合うんですよね、個性的な言葉だから。
-結成から17年間が経ちますが、アルバム毎に今お話してくれたような楽しみ方ができているからこそ、マンネリや停滞感を感じさせないのかもしれませんね。
森: 間違いないですね。それはあると思います。
中納: うんうん。森: 変わってる部分もあれば、変わってない部分もあって。昔からよく言ってるんですけど、"変わることが変わってない"というか。それありきのエゴラッピンと言いますか。
中納: 私も体調崩したり、ストレス溜まったりというのはありましたけど、必ずコンスタントにライブをやってきて、その都度感動することが多いので、それで救われてきたこともあるんですよね。音楽作ったり、歌詞を作ったりすることは、ある種仕事として捉えていない部分もあって、プレッシャーは持たないでやれてきてますよね。でも、もっともっと肩の力を抜いていきたいと思うんですよ。今作に関して言えば、周囲の人からも「なんか歌い方も肩の力抜けたなあ」なんて言われるんですけど、まだまだ力の抜き方が足りない。理想は歩いてるだけで音楽みたいな、そういう人。もうなんかONもOFFもない、どこまでかっこええねんコイツ、みたいな。
-具体的にイメージしてる人はいるんでしょうか?
中納: それが今はいないんですよねえ、理想像みたいな人は。昔と違うのはそこですよね。昔はいたと思うんですよ、この人みたいになりたいと思う人が。正直、それでちょっと分からなくなったりする時期もあったりするくらい。「何やったっけ、自分?」って。
森: でも、彼女のなかで根本にあるスタンスっていうのは、色々な楽曲を今まで歌ってきてるとは思うけど、一貫してあるとは思うんですよね。もっと伸びやかな、太陽的な要素も本来彼女は持っている。今回のアルバムでそういう部分が色濃く反映されているのは、冒頭でお話したような今の時代背景を考えても不思議なことではないですよね。
『steal a person's heart』
EGO-WRAPPIN'
¥3,000(通常盤) 発売中
[トラックリスト]
水中の光
FUTURE
AQビート
10万年後の君へ
on You
ウィスキーとラムネ
女根の月
ちりと灰
Fall
blue bird
fine bitter
EGO-WRAPPIN' official site
www.egowrappin.com
