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Channel: CULTURE FEATURE(カルチャー特集) | HOUYHNHNM(フイナム)
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映画『ムーンライズ・キングダム』公開。監督ウェス・アンダーソンの魅力とは? 友人・野村訓市さんの視点で眺めてみます。

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2月8日から全国公開中となっているウェス・アンダーソン監督最新作『ムーンライズ・キングダム』がとにかく素晴らしい。それは2012年のカンヌ映画祭のオープニング作品にも抜擢され、興行成績においてもウェス作品史上最高を記録したことでも実証済み。観る者の感性と心を揺さぶる作品を生み出し続ける"異才"の人物像と今作の魅力を友人である野村訓市氏の視点からひも解く。オフィシャルでは知り得ない、野村氏ならではのエピソードたち。

photo_Koji Sato[tron]
edit_Ado

純粋に映画が好きなひと。

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-ウェスってどんな人ですか?

野村訓市(敬称略/以下野村): とにかく細かくて意見をはっきり言う人ですね。同時に普段は浮世離れしているところもある。面白い人ですよ。すれてなくて、変わってる(笑)。

-野村さんが感じるウェスの面白みとは?

野村: 大きな映画も撮るから当然ファンも多いし、商業的な部分も持ち合わせている監督だとも思うんですけど、やっぱり映画が本当に好きで撮っている人なんですよね。話していてもまったく裏を感じないというか。

-素直な人なんですね。

野村: 変な色気はまったく出さないですね。みんなが期待していることの逆を行こうとか自分の見せ方を計算したりしない。純粋に映画が好きで、アイディアが浮かんだから作りたいと思ってる。ただそれだけなんじゃないかな。

-そもそも野村さんとウェスとの出会いは?

野村: ソフィア(コッポラ)と仲良かったんですよ。彼女は自分の友達が日本に来る時によく「会ってやってくれ」とか「遊びに連れてってやってくれ」と僕に頼むんですけど、ウェスの時はたまたま「友達が今度日本に行くから(野村さんの)メールアドレスを渡していい?」みたいな連絡がきて。そしたら一言「僕ウェスっていうんだけど、日本にいくことになったから会えない?」ってすごく短い文章が送られてきた。誰だかよく分かってなかったんだけど、いいよって返事したんです。当日、仕事抜けて待ち合わせしたホテルのロビーにふらっと行ったらなんか変わった感じの空気の人がいて(笑)。
そんなに寒くなかったんだけど真っ白なマフラーを巻いて首からさげてるから「たぶんこいつだろ」って思った。「よ、オレが訓だ」って言ったら「僕がウェスだ」って。それで2人で出かけて色々話してる途中で「あ、ウェス・アンダーソンなんだ」って気づいたんですよ(笑)。

-衝撃ですね(笑)

野村: 僕はあんまり人の職業とか気にしないので、ソフィアの友達でまた何かやってるヤツぐらいに思ってたんですよね。ウェスと分かってからは、ロマン(コッポラ)<※ソフィア=コッポラの兄>と仲がいいって言うから、ロマンと飲みにいった店に行ったり。普段からよくメールし合うのでお互い同じ国にいるタイミングのときは一緒にご飯食べに行ったりしてますね。

-純粋な友人としての付き合いなんですね。

野村: 僕は映画の人間でもなんでもないからね。

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-そんなウェスの映画『ムーンライズ・キングダム』はどうでした?

野村: ボーイスカウトにまた戻りたいな、って思いましたね(笑)。

-ボーイスカウトだったんですか?

野村: 中1の夏休み前から4ヶ月位入ってました。当時なぜかすごくボーイスカウトのキャンプに憧れてたんですよ。入隊しないと連れてってくんないって言うから、キャンプに参加してすぐに辞めた(笑)。

-主人公たちと同じぐらいの年齢ですね。

野村: そうですね。主役の子みたいに彼女とかはいなかったですけど。

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-子供の頃の遠い記憶とリンクした部分もあったんじゃないですか?

野村: 家出する場面で、これから必要になるであろう荷物を色々考えて詰め込んでたでしょ? ああいうのは似たような体験があって、ぐっときましたね。旅行に行く時ってあんな感じで、これも必要なんじゃないか、旅先でこんな本を読もうかとか考える。でも、実際は読まなかったりするんですよね。なんでこんな重い本を持ってきたんだろうとあとで後悔したり。
あの女の子は、今の私には本当にこれが必要だ、と真剣に悩んで持っていくべき物を選んでた。その感じがすごくよかったな。今はもう大人になって経験値があるから、旅先で必要なものと、そうでないものが分かるようになっちゃったけど。

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野村訓市的楽しみ方。

-野村さん的『ムーンライズ・キングダム』の楽しみ方はどこにあるのでしょう?

野村: 突き詰めて考えたり、起承転結や物語の伏線がこうなって...みたいな見方をしないほうがいいですね。その時の気分によって見え方も違ってくると思うし。
子供の頃に読んだ本って、そんなこと分からなくても理解できたでしょ? そんな風に観てもらった方がいいんじゃないかな。僕はすごく色んなことを思い出したし、甘酸っぱかった。ウェスっぽいし、好きです。サスペンス大作とかサイコスリラーものって、見てる人が同じ目線で最初から最後まで一直線に走っていく。それはそれで緊迫感があって現実を忘れさせてくれるけ、それを観ながら甘酸っぱいことを思い出した人ってあんまりいないでしょ? それに俳優がかっこいいとかそういう映画とも全く違う。

あと、ファッションや創作をやる人たちは絶対に観たほうがいい。彼の映画の世界観は、ブランドコレクションのようなものだと思うんです。セットや衣裳含めて、ここまで毎回違うものを作れる人はなかなかいない。色味とかセットの配列を見るだけでも絶対に面白いと思いますよ。建築とか内装をやる人たちにとっても、なにかヒントが落ちてるんじゃないかって思うし。自分は内装業もしているから、ウェスの映画はそんなところも猛烈に見てしまうんです(笑)。

-確かに。作品の細部に至るまで強烈な個性を感じます。

野村: ウェス自身、ファッションが好きでやってるのか、それともディティールオタクで"これはこうあるべきだ!"と思ってやってるのか分からないんだけど、彼はとにかくものすごく細かいんですよね。
僕は『ライフ・アクアティック』のビル・マーレーたちがかぶってる赤い帽子と青いセーターが大好きで「あれ欲しいんだけど、どこで買ったの?」って聞いたら、「あれは作った」って言うんですよ。「どこで?」って聞いたら、イタリアの修道院で修道女に手編みで編ませたって(笑)。
今回の『ムーンライズ・キングダム』も全部手作りなんですよね。テントとか、スカウトたちの衣裳も全部。
『ファンタスティック Mr.FOX』のメイキング本があって洋服を作ってる友達に見せたことがあるんだけど、スワッチ(素材見本)が自分たちよりも細かいって言ってましたね。
狐が着るやつなのに(笑)。ミリ単位で数値が表記されてたり、イタリアのパントーンが出てきて、このシーンはこのオレンジとこの色しか使うなとか。そのときのオレンジはこうあるべきだとか徹底的に指示が書いてある(笑)。

あと、彼は画を広くシンメトリーに撮るんだけど、そのせいか自宅もシンメトリー(笑)。何度か遊びに行ってるけど、もう配列とかやばいですね。置いてある家具はもちろん、たとえば棚にあるエビアンに至っては全部等間隔。しかも全部ラベルが前を向いて置いてあるんですよ。 彼は雑誌『ニューヨーカー』が好きで、70年代位から今までの号が全部家にあるんだけど、専用のバインダーをオーダーメイドで作って整然と並べて、しかもそれがずれてない。つねにグリッドをキープしている(笑)。

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-ウェスはなんでそんなにいろんなことに詳しいんでしょうか。

野村: 詳しいというか、画としてのこだわりが強いんですよね。ブランド名やどこで作られたのかは分かっていないのかもしれないけど、「この年代でこういう映画にはこんな色でコーデュロイの生地が欲しい!」みたいな部分にこだわる。誰かが何かを持ってきても、結局合わないと却下なんだと思う。
セットデザイナーに変動があっても、結局出て来た画を見てすぐウェスだ!って分かるんですよ。それは彼の頭の中に詳細な画があるからだと思うんです。映画のテーマやセットデザイナーが違えども、"ウェス印"になって作品が僕らの目の前に現れる。洋服屋さんがウェスのことをよくスタイルアイコンって言うけど、そんな感じの彼を見るとすごく刺激されるんじゃないのかな。

-そうですね。最近は本人のスタイルにも注目が集まっていますが、噂だとひとつのテーラーからしか服を作らないというのは本当ですか?

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野村: ニューヨークにある50丁目のテーラーでずっと作ってるみたいですね。別にすごく高価なものとかではなくて、自分の全ての採寸をして気に入った形がもうできたから、ひたすら生地を替えて作ってるんですよ。丈が短いのが好きだから、全部丈を短くしてしまってますね(笑)。

-そんな彼の人柄もあってか、今回の役者陣もやっぱりすごかったですよね。

野村: うん。みんな楽しいんだと思う。自分が演技するというより、ウェスの頭の中にあるチェスボードの駒になっている感覚。自分が演技している時はそれがどう見えるのか分からないのかもしれないけど、映画が完成するとそのチェスの駒がきちんときれいに配列されていて「あ、オレはコレだったのか!」と気づく(笑)。
そんな感覚に入ってみたくて、みんなウェスの映画には出たがるんじゃないかな。決してそんなに大きなお金をみんなに配ってるわけじゃないと思うし。
ウェスは役者と仲良くなるとずっと出し続けるからね。ジェイソン(シュワルツマン)だって、『天才マックスの世界』から出てるし、ビル・マーレーもそうだよね。 仲良くなった役者がどんどん増えてきて、それでいてみんな毎回出てくるから、だんだんチェスの駒が増えてる気がするよ(笑)。
そんなところもウェス映画の大きな魅力なんじゃないかな。

野村訓市/のむら・くんいち

1972年生まれ。編集者として数々の雑誌、コラムで執筆を行いながら、「トリップスター」名義にて家具や内装のプロデュースを手がけるなど、カテゴリーの枠にとらわれない活動を行う。
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『ムーンライズ・キングダム』
『ダージリン急行』等で知られる異才ウェス・アンダーソンの新作。
2012年のカンヌ映画祭オープニング作品に抜擢された注目作。
12歳の子どもたちによる駆け落ち騒動を、周囲の反応を交えてユーモラスに描く。
人気者ブルース・ウィリスやオスカー女優フランシス・マクドーマンドとティルダ・スウィントンら脇を固める俳優陣の豪華共演にも注目。

監督: ウェス・アンダーソン
出演: エドワード・ノートン, ティルダ・スウィントン, ジェイソン・シュワルツマン, ブルース・ウィリス, ビル・マーレー, ボブ・バラバン, フランシス・マクドーマンド, ジャレッド・ギルマン, カーラ・ヘイワード

公式サイト
http://moonrisekingdom.jp/index.html
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