
さまざまなアーテイストのカバー曲が大流行を続ける中、満を持して届けられた ハナレグミのオールカバーアルバムが静かなブームを巻き起こしている。ヒット 曲だから取り上げるのではなく、自分の人生のサウンドトラック、生まれ育った町のBGMとして選ばれた曲たち。ハナレグミ誕生のきっかけとなったアーティスト/DJの小池アミイゴと永積 崇自身ががっぷりよつに組んだアルバムジャケットも話題。古くからの盟友でもある2人が、歌に寄せる思いをじっくり語り合った。
Photo_Tomoyo Yamazaki【Toishi Management】
Text_Ikki Mori ,Edit_Satoru Kanai【Rhino inc.】
ハナレグミ
高校2年の頃よりアコースティック・ギターで弾き語りをはじめる。1997年、SUPER BUTTER DOG でメジャー・デビュー。 2002年、夏よりバンドと併行して、ハナレグミ名義でひっそりとソロ活動をスタート。現在までにアルバム5枚をリリース。現在、サントリー「角ハイボール」のCMソングとして、ハナレグミによる「ウイスキーが、お好きでしょ」がオンエア中。2013年5月22日には、時代を越えて歌い継がれる12の名曲を、多彩なゲストミュージシャンを迎えてレコーディングしたハナレグミにとって初となる待望のカバーアルバム『だれそかれそ』をリリース。その深く温かい声と抜群の歌唱力を持って多くのファンから熱い支持を得ている。 www.laughin.co.jp/hanare
小池アミイゴ
1962年群馬県生まれ。長沢節主催のセツモードセミナーで絵と生き方を学ぶ。1988年よりフリーのイラストレーターとしての活動をスタート。CDジャケットや書籍、雑誌等仕事多数。DJとして唄のための時間OurSongsを主催、デビュー前夜のハナレグミなど多くのアーティストの実験現場として機能。現在は日本の各地で暮らす人と共に、ライブイベントやワークショップを企画開催。2011年個展「その辺に咲いている花」(吉祥寺にじ画廊)、2012年個展「東日本」(青山space yui)を開催。2013年7月30日-8月3日青山CAYにてOurSongs「青山純情商店街」、2014年1月space yui にて個展開催予定。www.yakuin-records.com/amigos

-もともと、今回のアルバムのアートワークをアミイゴさんに頼もうと思ったきっかけは、どういうところだったんですか?
永積 崇(以下永積/敬称略): アルバムの曲がだいたい出て来て、そろそろジャケット等を誰かにお願いしないとなぁと思って、WEBとかを見ているときに、偶然アミイゴさんのホームページに行き着いたんです。そこに、東北の町のスケッチがYou Tubeの映像になって流れてた。見ているうちに、なんだか今回のアルバムを立体的に見せてもらってる感じがして、そのまま連絡しました。
小池アミイゴ(以下小池/敬称略): 今、だいたいみんなメールが多いんだけど携帯が鳴って、見たら、あぁ永積くんだなぁと思って、何だろうなと思った。だって、電話もらったのが、8年か9年ぶりくらいだったんで...。そしたらアルバム・ジャケットの依頼で、しかもカバーアルバム!
永積: 今回初めてカバーアルバムを作ったけど、昔バンドやってた頃、アミイゴさんがイベントに誘ってくれて、DJの合間に弾き語りで陽水さんのフォークソングとかをやらせてくれた。そういうのが全部、映像を見てるときに繋がって、これは絶対アミイゴさんにやってもらう以外には考えられないなって思ったんです。
小池: 出会った頃、僕らは渋谷系って呼ばれる中にいたんだけど、崇くんみたいにちゃんと歌える人が少なかったから、最初はシンプルに「羨ましいなぁ」と思った。そして、彼が歌う場所を作ってあげたいなと思った。どちらかと言うと、いつでも帰ってこれる場所みたいな......。
永積: みんながワァーって踊ってると、突然ライブになって、「真っ白な陶磁器を♬」って、弾き語りのフォークソングが始まる。そしたら、当時のオシャレな格好してるコたちも、みんな座って聞き入ってくれるような時間がそこにはあったんです。そのとき本能的に、新しい・古い・かっこいいじゃなくて、自分がいいと思ったものを歌えば、その日、そのときで繋がっていくものになる、伝わるんだなって思った。だからアミイゴさんイベントのときに感じたそれが、今回のアルバムの原点だったと思う。

-『だれそかれそ』のアートワークは、どんなふうに始まったんですか?
小池: 電話をもらった次の日の午後にレストランでミーティングして、人を描いて欲しいって言われて。僕は人を描くって、ある意味挑戦なんだけど、崇くんの歌があって町を歩けるならできるかなと思った。話の途中から、とにかく国立へ行きたくなって、次の週、中央線に飛び乗って出会った風景をどんどん描いていった。国立っていうのは、今回の『多摩蘭坂』じゃないけど、ミュージシャンにとって特別な何かがあるみたいだよね。 (忌野清志郎作の『多摩蘭坂』は、国立にゆかりのあるミュージシャンばかりで録音されている)
永積: なんかそうみたいですね。まぁ美大が近いっていうのもあると思いますよ。多摩美と武蔵美とか、あとは位置的に言うとヒッピー系の人が国立とか、そっちの武蔵野には多くて、文教地区っていうか、町としてもきれいだし、大学がある側は特に美しい。
小池: 中央線、新宿から乗っていくと、だんだん東京的な価値観とかいろんなものが引き剥がされていくんですね。で、高円寺を過ぎた辺りから少しずつ武蔵野の気配が見え隠れして、雑木林の影とかがザーッと車窓から見えて、着くと国立。降りるとなんかのんびりとした人たちが歩いてる、びっくりしますね。だから、東京じゃなくて、国立という町なんですよね。地方都市の駅のこっち側は立派で、でも、もう一つの改札口から行くと、畑の中に高速道路とでかい建物が見えたりとか、郊外型のショッピングモールがデーンとあったりとか、そういう今の日本そのものの景色もあるし...。
永積: アミイゴさんがアルバムに描いてくれたのは国立の町なんだけど、ほんとこれをパッと見たときに誰の町にでも起こり得るシーンを描いているなぁって思ったんです。僕から見たら、ここはあの場所の角だなぁとか、大学通りのどこらへんかなあとか思ったりするけど。ふと、こういう風に改札口を出る後ろ姿って誰もが見る景色だと思う。だから僕が一人で歌い終わったときには、自分がパートナーだった町だけど、この絵と一緒になったときに誰の町にでもなってしまう。一人ひとりの「あなたの町のBGM」になれたと思う。

-今回、アルバムの選曲を決定するとき、選び方の基準などはあったんですか?
永積: ふだんから、けっこう弾き語りとかのライブでカバーすることは多くて、改まってカバーっていう感覚は、あんまり自分の中でしっくり来なかったんです。自分の中では、他人(ひと)の曲っていう気持ちもなく、自分のことのように、他人の言葉とか詞を歌うっていうのはずっとあったんで、選曲の時もカバーアルバムを出すためにカバー曲を選ぶっていうのが、やっぱりしっくり来なかった。
小池: 初めて打ち合わせたときに、タイトルを紙に書いて見せてもらって、曲順見て、(崇くんの)今までの時間がパッと解凍されたような感じがして、選曲という行為がもはやすごい表現になってるなコレって思った。
永積: やっぱり、今まで歌っていた曲だったり、自分の今までの時間の中で、風景とか、自分の起こった出来事と一緒にその音楽があるような、そういうものから歌うのが自分らしいのかなぁと思って...。だから、ずっと知っていたりとか、ライブでやってはいないにしても、なんかちっちゃい頃に歌っていた曲とか、そういうものを選びましたね。ずーっと曲並べたときに、自分のオリジナルを作る以上に、なんか自分の中心の部分ていうか、ちょっと黄昏れている感覚っていうか、そういうものが逆に浮き彫りになってるなぁと感じました。
小池: 俺は昔から、崇くんにセクシャルな歌を歌ってもらいたいと思ってた。短絡的なHな歌じゃなくて、ちゃんと生きるセクシャリティーみたいなものを、すぐではなくていいから、ゆっくり探してって欲しいなと思って...。きっと社会の若いコたちが悩んでる身体とかセクシャリティーみたいなことを、ちゃんと埋めてあげられるような歌を残せるんじゃないかなとすごく思ってたのね。ずーっと待っていて、今回「甘いくちづけ♫」、来たなコイツ!オリジナルの井上陽水さんの夜のムードを一回解凍してあげて、今のコたちが足りてない部分にポンと新しい歌として届けられたんじゃないかなと、そんな風に思いましたね。

-『接吻 kiss』ってこういう歌詞だったんだっていうことも、今回改めて気付いた気がします。
永積: 僕も、そうなんですよ。それこそ18歳か19歳くらいのときに、田島さんのオリジナルを聞いたけど、その時はサウンドがかっこいいなぁと、やっぱオシャレだなぁと思って聞いてたけど、今回歌ってみたら、「焼けるような戯れの後に 永遠に一人でいる事を知る」っていう、ものすごいパンチラインだなって思って...。そういう悲しさとかが、音楽っていうものになると、こんなにも共有できて、それで輝いていく...。
小池: 打ち合わせで曲順見せてもらって、世代的にパッともう全部歌えちゃうから、タイトル見ただけで、もうある意味消費しちゃったんだね、自分で歌っちゃってるし。でも、まだ音聞いてないから、これどうすんだろう?って思った曲もあった。でも、できあがってみると、佐良直美さんの大ヒット曲を、懐メロじゃなくて、今の俺たちの歌に変えてくれたんだなぁと思った。これって、褒め過ぎ?
永積: 『いいじゃないの幸せならば』は、決して昭和のその頃の話ではなくて、こういう思いってみんな誰しも持ってる感覚だろうなって思ったんです。今、アイドルに夢中になって「イェー!!」とか騒いでるコの中にも、こういう感覚のコはたくさんいるはず。いつの時代にも変わらないっていうか、人間の元の部分って何も進化しない。やっぱり、僕はその部分にぐっと来るっていうか、いいなぁって思うんです、いつも。

小池: 今、ハナレグミのパブリックなイメージていうのは、フェスに出て「みんな元気ぃ?」って感じの人だけど、俺が知っているのは六本木とか青山の暗がりで(弾き語りのために)一所懸命コードを確認してる人なんですよ。ただこのアルバムに関しては、そのパブリックイメージを持っている人たちを越えて聞いてくれる人がいるはずなんで、だからやっぱりもう一度、暗がりの中の孤独な、夕暮れ時の孤独な永積崇くんを発見してもらいたいなって、そういう願いはありますね。

-タイトルの『だれそかれそ』というのは、黄昏のもとになった言葉ですよね?
永積: 黄昏時に「誰かな?あいつかな?」っていうぐらいの距離感、薄ぼんやりとしてるんだけど、むしろ逆にその人の中心にたどり着けるような気がする。その人を本当に知るには、もしかしたらイマジネーションってものがとても重要で、実際の会話で知る以上に、「どうして、その言葉を言ったのかな?」というようなことだったり、そうやって想像することで、その人がより近くに感じられるのかもしれない。だから秋口になって陽が伸びて、影がバーンと道端に伸びて、少し乾いた風が吹いて、そういうときに急に立ち表れてくる切なさとか孤独。そういうものってすごく快感っていうか、自分も誰なのかが分かんなくなる瞬間って、なんかやっぱり快感なんです。自分はそういう感覚を大切にして、やっぱりこの先も何かを創りたいなぁと思います。
小池: 俺たちが生きてる社会っていうのは、切なさとかそういうたくさん曖昧なものに溢れている。だからJ-Popみたいに「大丈夫だよ、明日に向かって」ばかり言ってるとどこかで破綻してしまう。だからどこかで、しょうがないなぁ誰だか分かんないな、今日やってみようか、やっぱやめとくかみたいな、そういう曖昧なとこで、自分を感じて、人を感じるんだよね。で、その足りない部分に崇くんの歌がある。
永積: キリンジの『エイリアンズ』とかも、今、こういうこと歌ってたんだなぁと改めて感じて、そしたらアミイゴさんがそれを打ち合わせのときに言ってたことを思い出した。「ブルースは地方都市の風景の中にあるって、日本の大半の景色がそういうことなんじゃないか」って。都会なんてのはある一部分、限られた場所にしかなくて、ほんとは田んぼの真ん中にいきなり高速道路があったりとか、日曜にみんなで行くとこがショッピングモールで、みんなショッピングしてっていう。それが日本の大半の景色じゃないかって。そう言われて、キリンジの歌詞を歌ってるとき、エレキギターにエフェクターかけてバーンって長いディレイ飛ばしたら、突然その異様さが立ち上がって来て、シティポップな雰囲気じゃなくて、殺伐とした町の中で、自分を見失ってる人たちの恋物語。モノの間で暮らしてるカップルの景色が見えて来て、なるほどなぁっと思った。

小池: キリンジって、すごくキレイでプロフェッショナルなアレンジとメロディーなのに、どこかにドロンとしたものがある。だったら、それを思いっきり抉ったらって感じで、あのカバーは見事だったなぁ。あれが最後から2番目にあることでアルバムがすごくしまってるし、すごいねアレは。ほんとに、ショッピングモールに向かう白い軽ワゴンの列っていうのが日本の風景なんですよ、今。そこで子どもにゲームソフト買ってあげるのか、輸入雑貨を買うでもなく見るのかっていうのが幸せだったりする...。そういう人たちのためのBGMってねぇーじゃん!みたいな。妹がそういう生活してて車の中で聞いてるのはK-POPだったりしてダンスミュージックなんだよね。だったら今回の『オリビアを聞きながら』とか軽ワゴンの中で、子どもがギャーギャー泣いてる中で聞いて欲しいなとか思った。
永積: アハハハ(笑)
小池: 「出会った頃はぁ♬」とか「幻を愛したのー!」って大声で歌ってるとか、でも、渋滞してるとかね。で、最後に地獄に堕ちるみたいな、『エイリアンズ』かかる。(笑)
永積: で、急に車内がシーンとなるみたいな...。
小池: 自分の思惑とか破綻してしまった方が、必要な歌は際立って聞こえてくるよね。そんな中で、あらためて永積崇って人の歌を発見してもらえたらだね。

永積: PV作るときも、お互い同じものを言い合わないようにしようといつも言ってて、ずっとそれはアミイゴさん最初から変わらず言ってて、歌い合っちゃうとたぶんストーリーが非現実っぽくなるっていうか、一個一個の絵って、その、こういう言い方が合ってるか分からないけど、一瞬のことで、誰しもが通り過ぎていくような何でもない瞬間を切り取ってると思うんですよ。だから、それをあんまり歌っちゃうと何でもなってしまったら、たぶん違うんだと思うんですよ。で、僕もPVのときに歌のスピードとかをこういう感じどうかな?とか言ったら、アミイゴさんが「あんまりシンクロしちゃうと歌の距離感が変わっちゃう!」
小池: もともと同じ方向を向いてるけど、黄昏時だからみんながどこを向いているか分からないみたいな感じでやれたらいいんじゃないかなって...。
-今回カバーをこれだけやってみて、改めて曲を作りたい気分になりましたか?
永積: すごく思います。あぁなんか次のアルバムを早く作りたいなって気持ちになってる。なんだろう?自分で作ると、歌詞書いてメロディ書いていくと、その間に何百回って、作りながら歌ってる状態。こうやってパッと歌にだけ集中して、ストーリーもどっかの部分ではもちろん繋がってるけど、僕は女性でもないし、でも、女性詞を歌うことで、どっかの国に行って旅行してるような、この町に住んでる自分をヨソから想像してるような、なんかそういうような感覚。で、ほんとに音楽で遊んでる感覚。旅してるような感覚、気持ちの中でいろんな人になるような...。なんか早くもっと自分の言葉を紡ぎたいなぁという、言葉とか、メロディーとか、そういう感覚にすごく今なってますね。
『ハナレグミツアー だれそかれそ』
●9月7日(土)BLUE LIVE HIROSHIMA
問:夢番地[広島]082-249-3571
●9月9日(月)Zepp Nagoya
問:JAILHOUSE 052-936-6041
●9月10日(火)Zepp Namba
問:清水音泉 06-6357-3666
●9月12日(木)Zepp Fukuoka
問:キョードー西日本 092-714-0159
●9月22日(日)仙台市民会館 大ホール
問:ノースロードミュージック 022-256-1000
●9月25日(水)Zepp Tokyo
問:ディスクガレージ 050-5533-0888
●9月26日(木)Zepp Tokyo
問:ディスクガレージ 050-5533-0888
【開場/開演時間】
18:00/19:00
※仙台公演のみ=17:30/18:00
【チケット料金】
Zepp公演=スタンディング \5,775(税込)/2F指定席 \6,300(税込)※共にドリンク代別
※3歳以上チケット必要/2歳以下2F指定席のみ入場可
広島公演=スタンディング \5,775(税込) ※ドリンク代別
※3歳以上チケット必要、3歳未満入場不可
仙台公演=全席指定 \6,300(税込)
※3歳以上チケット必要
チケット一般発売日:6月23日(日)10:00~全国一斉発売
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★夏フェス続々出演決定!
●RISING SUN ROCK FESTIVAL 2013 in EZO
日程:8月16日(金)、17日(土)
※ハナレグミは17日(土)に出演
会場:石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ
http://rsr.wess.co.jp (PC・MOBILE共通)
●ホットフィールド2013
日程:8月24(土)、25(日)
会場:宮野運動公園(富山県黒部市)
※雨天決行、荒天・天災時中止
開場 9:30 / 開演 11:00 http://hotfield.jp/
●グッドネイバーズ・ジャンボリー 2013
日程:8月31日(土)
会場:鹿児島県・かわなべ森の学校
開演 11:00
チケット料金: [前売]\4,500 [当日]\5,000 http://goodneighborsjamboree.com/
