
2013年に生誕80周年を迎えた"ミスター・ダイナマイト"こと、故ジェームス・ブラウン。彼を愛してやまないDJ・プロデューサー"KING OF DIGGIN'"MUROが満を持してノンストップミックス「DIGGIN' JAMES BROWN」をリリース。永遠の名曲から今や手に入らない貴重な音源を、いつものMURO節でたっぷりと聴かせてくれる。この1枚でジェームス・ブラウンがかならず好きになるはず。語り継がれる決定盤だ。
Photos_Daisuke Mizushima
Edti_Masaki Hirano
MURO
"KING OF DIGGIN'"として世界にその名を馳せるDJ/プロデューサー/ラッパー。1980年代後半から活動し、日本におけるHIPHOPカルチャーを根付かせ、日本語ラップの"改正"を唱えながらシーンを進化させている。これまでクラシックとなる楽曲やミックスを多数リリースし、国内のみならず世界中のアーティストからその音楽知識の深さに定評を得ている。2011年5月にセレクトショップ「DIGOT」を渋谷ファイヤー通りにオープン。www.digot.jp
MURO: 前に取材していただいたのって何のときでしたっけ?
-あのときは「DIGGIN' FOR BEATS」でした。あれが去年の12月だったので、もう5ヶ月前になりますね。3月に「DIGGIN' P-VINE」、4月に「DIGGIN' SALSOUL BREAKS」とリリースが続いて、ついにJBが来たか! と、ちょっと興奮気味です。そもそもジェームス・ブラウンの曲に出会ったのはいつごろだったんですか?
MURO: たしか中学校くらいに観た『ロッキー4』だと思います。「LIVING IN AMERICA」ですね。
―ジェームス・ブラウンと言うと、やっぱりそのイメージが強いですよね。
MURO: しかも、ちょうどパルコか何かのCMに出ていて、ポスターにもバーンとアップで出ていて、わざわざ剥がしに行ったりとかして(笑)。
―MUROさんはジェームス・ブラウンに会ったことあるんですか?
MURO: ないですね。90年代にライブを1回だけ観たことがあります。とにかくすごかったですね。FUNKとかHIPHOPといった枠にくくれない偉大さというか、マントショーひとつとってもかっこよくて。いま振り返ってみても、自分が見てきたのって70~80年代の一部だけで、60年代ももちろんあるし、シングル盤から集めてたとしたら相当な歴史だなと思います。
―中でもいちばん思い入れのある曲はありますか?
MURO: やっぱり入りが映画のサウンドトラックだったんで、『Black Caesar』の「DOWN AND OUT IN NEW YORK CITY」です。ラップをやってたころにライブでも使ったりしてたんで思い入れがありますね。
―1人のアーティストの曲だけでミックスしていく難しさみたいなものは?
MURO: 純粋に自分が聴いてきたものであれば楽しみながらできますね。特にジェームス・ブラウンは、いろんなことの基準になっている人なので、2枚組のボリュームでもできちゃったりします。例えばファミリーだったり、プロデュースのくくりだったりすると際限なし作れると思います。ただ、今回は生誕80周年ということもあって、ジェームス・ブラウン名義にこだわったというのはありますね。
―なるほど。ということは、制作の手順も普段のミックスとあまり違いはないんでしょうか?
MURO: あまり変わらないかな。部屋の中でレコードを出して1回効き直して、変な話し1軍と2軍や、インストとボーカルを別けたりしていって、例えばイントロがいいなと思ったらそこから組み立て始めたり。この曲は早くみんな聴かせたいなと思うようなハイライト的なものがあれば、その前後を考え始めたり。進め方はいつもと同じかもしれないです。
―HIPHOPとジェームス・ブラウンは、深い関わりがあると思いますが、MUROさんなりの考えを教えていただけますか?
MURO: キャリアの後半の方ではラップもやってるんで、僕はシュガーヒルギャングと同じでHIPHOPだなと思います。マイアミのレーベルで出した曲に「RAP」って入ってるものもありましたし。ラップというジャンルを確立した1人なんじゃないかなと思います。
―今回のミックスに関してMUROさんとしても思い入れがあると思います。こだわりや聴きどころを教えてください。
MURO: まずジェームス・ブラウンの曲をイジれるっていうのが奇跡的なんです。過去にリミックスは1度あるんですが、曲のピッチを変えたりできること自体がすごいことなんですよ。そんなこともあって、最初にお話しをいただいたときにとても驚きました。
―そうなんですね。
MURO: あとは映画のサントラのスコアを手がけているつもりで作りました。「DOWN AND OUT IN NEW YORK CITY」から始まっていく感じとかですね。それ以外でも、途中でライブバージョンを差し込んだりしながら、DJingの楽しさも伝えられるような構成を意識しました。
―これまでのMUROさんのミックスでも、ライブバージョンの曲が良いタイミングで流れますよね。
MURO: 昔からワクワクするっていうか。かっこいいライブバージョンがあったら、それをどうにか活かしたいという気持ちがあるんです。ジェームス・ブラウンにしても、やっぱりライブが有名なので、今回も使いたいなと思っていました。
―なるほど。
MURO: それと、僕も歳を取ったからかもしれないんですけど、ディスクユニオンのSOUL/BLUES館みたいな、年齢層が40~50代中心のところに行くと、「これは"ガシャガシャ"してるからいらない」みたいな会話が聞こえてくるんです。
―"ガシャガシャ"って具体的にはどういうことなんですか?
MURO: 音の数が多いのか、スクラッチが入ってるのか、そういうことだろうなと思うんです。それと80年代ってディスコのいいとこ取りみたいなメガミックス文化が多かったじゃないですか。その周期がまた回ってきていて、いまもたくさん出てますよね。年齢が上の人たちはミックスっていうものを通ってきていないから、抵抗を感じるんじゃないかなと思うんです。
―おそらくその通りだと思います。
MURO: 僕はそういう人たちにも届くような、もうすこし音楽的なノンストップものを作りたいなとこの数年努力をしているんです。実はちょうど今回のミックスが出た日に、気になってレコード屋に行ってみたんです。年齢層が高いところで反応はどうかな? と思って。そしたらちょうどレジ前で、僕のことを知らない方がミックスを手に取って「これはどういう人なの?」って店員さんに聞いていて。うわーこれは入っていけないなあ、と(笑)。あとで伺ったら買っていかれたそうで、一安心ということがありました。
―僕らのような30代くらいの世代は、ジェームス・ブラウンのことをちゃんと知らないから、という気持ちが購入につながったりもすると思うんです。でも年齢が上の人たちで、もともとジェームス・ブラウン好きな人からすると、また違う気持ちで手に取るんじゃないかなと。
MURO: そうですよね。だからそういう意味では今回はチャンスだと思ったんです。こんな聴き方ができるんだとか、ぜんぜん違う風に聴こえるとか、この曲こんなによかったっけ? とか、セレクトや並びの重大さとか。そういうこと全部を、たくさんの人にわかってほしいなという気持ちはありますね。
―では最後に。MUROさんが考えるジェームス・ブラウンの魅力とはどんな部分でしょうか?
MURO: やっぱりパイオニアなところだと思います。 FUNKにしてもHIPHOPにしても、さっき話したライブの熱さにしても、いろいろなことの基準になっている人だと言えるんじゃないでしょうか。それにループミュージックの美しさを教えてくれたのもJBですね。延々とグルーブをループしながら歌っていく手法は、今のラップにもつながっていると思います。
―はい。そこは改めてミックスを聴いていて、HIPHOPだな~と感じました。
MURO: そういう意味でも、今回はプレッシャーもあったし本当に大変でした。JBのミックスって実は過去にたくさん出ているです。例えばJ.ロックがやっていたり、ストーンズスロウの他のメンバーがやっていたり、あらゆるミックスを全部聴きました。
―そうなんですね。
MURO: やっぱり同じような構成になるのは嫌なのでけっこうアレコレ考えましたね。制作に入る前と後に、おじいちゃんのお墓参りに行ったくらい(笑)。それだけ今回は大変だったし、逆に言うと思い入れのある1枚に仕上がっていると思います。
DIGGIN' JAMES BROWN
¥2,500 発売中
[トラックリスト]
1. DOWN AND OUT IN NEW YORK CITY
2. BLIND MAN CAN SEE IT
3. THE BOSS
4. DON'T TELL IT
5. THE PAYBACK
6. HOT PANTS ROAD
7. FUNKY DRUMMER
8. PART TWO (LET A MAN COME IN AND DO THE POPCORN)
9. COLD SWEAT
10. JAMES BROWN - A TALK WITH THE NEWS [STEVE SOUL]
11. SAY IT LOUD - I'M BLACK AND I'M PROUD
12. MY THANG
13. FUNKY PRESIDENT (PEOPLE IT'S BAD)
14. MIND POWER
15. THERE WAS A TIME
16. AIN'T IT FUNKY NOW
17. THE CHICKEN
18. NOSE JOB
19. TALKIN' LOUD AND SAYING NOTHIN' PT. 1
20. TALKIN' LOUD AND SAYIN' NOTHING (REMIX)
21. BLUES & PANTS
22. BABY HERE I COME
23. GIVE IT UP OR TURN IT A LOOSE
24. GET UP, GET INTO IT, GET INVOLVED (LIVE (APOLLO THEATER 1971)]
25. I CAN'T STAND MYSELF (WHEN YOU TOUCH ME)
26. SUPER BAD
27. GET UP I FEEL LIKE BEING LIKE A SEX MACHINE (PART 2)
28. SOUL POWER
29. GET ON THE GOOD FOOT
30. CAN I GET SOME HELP
31. COLDBLOODED
32. CAN MIND
33. SOULFUL CHRISTMAS
34. BRING IT UP
35. I GOT ANTS IN MY PANTS (AND I WANT TO DANCE)
36. DEAD ON IT
37. GET UP OFFA THAT THING / RELEASE THE PRESSURE
38. MAKE IT GOOD TO YOURSELF
39. I'M SATISFIED
40. THE DRUNK
41. PEOPLE GET UP AND DRIVE YOUR FUNKY SOUL
42. IN THE MIDDLE
43. ESCAPE-ISM
